鹿による農作物被害を防ぐうえで、侵入防止柵は重要な対策です。

さらに、農林水産省は鳥獣被害対策について、侵入防止だけでなく、生息環境管理と捕獲を地域ぐるみで組み合わせることが重要だとしています。
この79億円という数字を入口に、なぜ柵だけでは十分と言い切れないのか、どの条件を確認すべきなのか、そして鹿による被害が農地の外までどのように広がっているのかを整理します。
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シカによる農作物被害は79億円。前年度から9億円増えている
農林水産省によると、令和6年度の野生鳥獣による全国の農作物被害金額は188億円で、前年度から24億円増加しました。
そのうち、シカによる被害は79億円です。前年度と比べて9億円増えています。

令和6年度のシカによる農作物被害金額は79億円で、前年度から9億円増加しています。
農林水産省の農作物被害金額は、被害量に農作物の単価を乗じて算出される指標です。
そのため、79億円という数字は被害規模を把握するための重要な指標ですが、シカによる影響のすべてを一つの金額で表したものではありません。
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シカは何頭いるのか。生息域の拡大と個体数は分けて見る
環境省が2026年4月23日に公表した推定では、2023年度末のニホンジカの個体数は、北海道を含む全国の中央値で約303万頭、本州以南では約230万頭です。

推定個体数と生息域の拡大は別の情報として見る必要があります。
一方、本州以南ではニホンジカの生息域が全国的に拡大していることが確認されています。
生息密度には地域差があるため、「日本中で同じ程度に増えている」と考えるのも適切ではありません。
シカの増加や生息域拡大の背景については、一つの原因だけで説明できません。
農山漁村での人間活動の低下や耕作放棄地の増加、少雪による自然死の減少、狩猟者の減少などに伴う捕獲圧の低下といった複数の要因が指摘されています。
環境省と農林水産省は、ニホンジカについて2011年度比で個体数を半減させる目標を掲げており、2023年9月には目標期限を2028年度まで延長しました。
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柵があっても侵入されるなら「どこから入ったか」を確認する
鹿対策で最初に確認したいのは、「柵があるかどうか」だけではなく、実際に侵入できる経路が残っていないかです。
鹿の侵入は、柵を跳び越える場合だけとは限りません。
柵の下部や地面との隙間など、別の経路が使われる場合もあります。
設置した柵そのものに問題がなくても、地形に沿って隙間が生じていれば、そこが侵入経路になる可能性があります。

被害が続くときは、柵の高さだけでなく、下部の隙間や接続部も確認する必要があります。

つまり、被害が続いているときに「もっと高い柵にすればよい」とすぐ結論づけるのではなく、まず侵入地点を確かめることが重要です。
どこから入っているのかが分からないまま対策すると、原因とは別の部分だけを強化することになりかねません。
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「1.5m」「2m」「140cm以上」――柵の高さは数字だけを比べない
鹿対策の柵について調べると、必要な高さとして異なる数字が見つかります。
たとえば、茨城県の農業情報サイト「農業いばらき」では、ワイヤーメッシュ柵について高さ2m程度という情報が示されています。
一方、電気柵を扱う事業者の協和テクノでは、シカ向け電気柵について1.5mという高さが紹介されています。
さらに、農研機構の電気柵研究では、神津牧場の牧草地における試験で、高さ105cmのPW5は跳び越えられ、高さ165cmのFW7では確認された侵入がくぐり抜けのみだったとされています。
同研究では、牧草地用電気柵について最上段を140cm以上とすることが推奨されています。

高さの数字だけで結論を出さず、柵の種類や設置条件、情報源の違いまで確認する必要があります。
2mという情報はワイヤーメッシュ柵、1.5mという情報は電気柵を扱う事業者の説明、140cm以上という情報は特定の牧草地で行われた電気柵研究に基づくものです。
柵の種類も、設置場所も、確認方法も同じではありません。
農研機構自身も、高さ条件をそろえた追加実証が必要としています。
したがって、「2mだから1.5mより安全」「140cmあれば必ず防げる」といった読み方はできません。
高さを確認するときは、数字だけを見るのではなく、
- どの種類の柵についての情報か
- どのような場所で使われたのか
- 実験結果なのか、施工上の推奨値なのか
- ほかの侵入条件がどのように管理されていたのか
まで確認することが大切です。
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小さな隙間も見逃せない。ただし実験値を「安全ライン」にしない
鹿の侵入を考えるときは、柵の高さだけでなく隙間にも注意が必要です。
農研機構の通過実験では、縦長の隙間の場合、成獣メスは17.5cm、0歳個体は15cmまで通過しました。
横長の隙間では、成獣メスが27.5cm、0歳個体が20cmまで通過しています。

隙間の数値は通過実験の結果であり、安全を保証する基準ではありません。


実際の農地では地形や柵の変形、地面の凹凸など、実験条件とは異なる要素があります。
そのため、この研究から得られる実用上のポイントは、特定の数値をそのまま施工基準にすることではなく、「人から見ると小さく感じる隙間でも侵入経路になり得るため、下部や接続部分を確認する必要がある」と捉えることです。
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柵の実効性を左右するのは高さ・隙間・維持管理
侵入防止柵を機能させるには、高さ、隙間、維持管理をセットで確認する必要があります。
電気柵の場合、設置した時点では機能していても、雑草が電線に接触すると漏電し、電圧低下につながることがあります。
「農業いばらき」でも、電気柵について雑草の接触による漏電や電圧低下を防ぐため、除草や点検の必要性が示されています。

柵は設置して終わりではなく、除草や点検を続けることで実効性が保たれます。

時間の経過とともに草が伸びたり、地面や柵の状態が変わったりすれば、設置時にはなかった侵入経路が生じる可能性があります。
被害が続く場合には、柵そのものだけでなく周囲の環境も確認する必要があります。
農林水産省は、収穫後の農作物残さなどを適切に管理・除去し、野生鳥獣を寄せ付けにくくすることを生息環境管理の一つとして推奨しています。
そして、鳥獣被害対策全体では、
- 野生鳥獣を寄せ付けにくい環境をつくる生息環境管理
- 農地への侵入を防ぐ侵入防止対策
- 個体数などを管理するための捕獲
を地域ぐるみで組み合わせることが重要とされています。
柵の高さや隙間を適切にすることは重要です。
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鹿対策は「設置できるか」だけでなく「続けられるか」が問題になる
鹿対策では、効果のある方法を知ることと同じくらい、その対策を継続して管理できるかが重要です。
柵は設置して終わりではありません。
だからこそ、対策の主体を個々の農家だけに限定して考えるのは適切ではありません。
農林水産省は、広域的な侵入防止柵などについて、農家以外の地域住民の協力も含めた持続可能な管理体制を構築することを推奨しています。

広域柵の維持には、個人だけでなく地域ぐるみの管理体制が重要です。
また、鳥獣被害対策には、市町村が作成する被害防止計画や、地域で捕獲や被害防止に取り組む鳥獣被害対策実施隊といった仕組みもあります。

誰が点検するのか、異常を見つけたとき誰が対応するのか、広い範囲をどのように管理し続けるのかまで含めて考えることが、長期的な対策につながります。
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捕獲を担う人材の確保も対策を続ける条件になる
侵入防止柵と並んで重要なのが捕獲です。
ただし、捕獲も「必要なら増やせばよい」と簡単に実行できるものではありません。
農林水産省の鳥獣被害対策に関する情報でも、対策を進めるうえで捕獲を担う人材の確保が課題として挙げられています。
そのため、鹿対策を考えるときは、柵の性能だけでなく、地域で対策を継続する体制まで含めて考える必要があります。
侵入を防ぐ設備があっても、その状態を確認する人がいなければ維持できません。
捕獲が必要な状況でも、それを担う人材が確保できなければ対策は進みません。
鹿の食害は、設備だけで完結する問題ではなく、対策を継続する仕組みの問題でもあります。
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鹿の影響は農作物だけではない。森林でも被害が確認されている
鹿による被害は農地だけで発生しているわけではありません。
森林では、枝葉を食べる食害や、樹皮を剥ぐ被害などが確認されています。

シカの影響は農地だけでなく、森林の枝葉や樹皮にも及んでいます。
つまり、「鹿の食害」を農作物79億円という数字だけで捉えると、森林で発生している別の被害が見えにくくなります。
農地への侵入を防ぐことは重要ですが、鹿は農地の中だけで生活しているわけではありません。
農地周辺を含む生息環境の管理や捕獲まで組み合わせる必要があるのは、このためです。
また、広域柵の維持や捕獲には地域側の管理体制も関係します。
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「柵を立てたか」ではなく、防げる条件が続いているかを見る
鹿による農作物被害への対策では、「柵を設置した」という事実だけで効果を判断することはできません。

確認したいのは、実際に侵入を防げる条件が保たれているかです。
高さについては、ワイヤーメッシュ柵の2m程度、電気柵の1.5m、農研機構の研究に基づく最上段140cm以上といった異なる情報があります。
これらは柵種や情報の出所、設置・調査条件が異なるため、一つの数字に統一するのではなく、それぞれの前提を確認して読み分ける必要があります。
隙間についても、農研機構の実験結果は侵入可能性を考える材料にはなりますが、安全を保証する境界値ではありません。
そして、適切な高さや隙間を確保しても、維持管理ができなければ柵の実効性は変わります。
だからこそ、鹿対策では次の点をまとめて確認する必要があります。
- 柵の種類と設置条件に合った高さになっているか
- 地面や接続部分に侵入できる隙間がないか
- 草の接触や破損など、設置後の変化を点検できているか
- 農作物を残さないなど、鹿を寄せ付ける要因を管理できているか
- 必要な捕獲と組み合わせられているか
- それらを地域で継続する管理体制があるか

鹿対策は、柵の高さや隙間だけでなく、維持管理や環境管理、捕獲、地域の体制まで含めて確認することが重要です。
令和6年度、シカによる農作物被害金額は79億円でした。
高さ、隙間、維持管理、生息環境管理、捕獲、そして対策を継続する体制まで分けて確認することです。
鹿の食害を防ぐ条件は、柵を立てた瞬間に完成するのではありません。

侵入を防げる状態をつくり、その状態が続いているかを確認し続けることまで含めて、初めて対策として機能します。
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