【2026年10月】最低賃金+55円で採用はどう変わる?中小企業が見直したい「給与以外」の発信

経営と採用

 

「また時給を上げないと、人が来ないのか……」

2026年秋を前に、そんな悩みを抱えている地方企業の経営者や採用担当者も少なくないのではないでしょうか。

2026年度の最低賃金について、中央最低賃金審議会は全国加重平均で55円、引き上げ率4.9%という目安を示しました。これは過去最大の引き上げ幅です。

ただし、ここで注意したいのが「55円」という数字です。
これは全国すべての地域で一律に55円上がるという意味ではありません。中央最低賃金審議会が示すのはあくまで「目安」で、実際の最低賃金は都道府県ごとに決まります。

では、私たちが暮らす長野県では、どうなるのでしょうか。

長野県の最低賃金は「56円アップ」の1,117円へ

長野県では2026年8月6日、長野地方最低賃金審議会が、最低賃金を現在の1,061円から56円引き上げ、1,117円とする答申を行いました。
発効日は2026年10月2日の予定です。

つまり長野県では、

  • 2025年度:1,061円
  • 2026年度:1,117円(予定)

となり、全国平均の引き上げ目安55円を1円上回る形です。

1,100円台に入るのは長野県では初めてです。
長野県内で人を雇う企業にとっても、決して他人事ではありません。

そもそも、なぜ最低賃金をこれほど引き上げるのか?

「それにしても、なぜ今年は55円、長野県では56円も上がるの?」

そう疑問に思う方もいるでしょう。
最低賃金は、単純に「国が時給を上げたいから」という理由だけで決まるものではありません。

最低賃金法では、地域の労働者の生計費、賃金、企業の賃金支払能力を考慮して最低賃金を決めることとされています。

今回の大幅な引き上げの背景には、物価上昇による生活への負担や、賃上げの流れを全国に広げていくことがあります。
簡単に言えば、
「物価が上がっているのに、賃金が上がらなければ生活が苦しくなる。だから賃金の底上げを進めよう」
ということです。

政府としては、働く人の所得を底上げすることで消費を支え、賃金と物価がともに上がっていく経済の循環につなげたいという狙いがあります。
ただし、働く人にとってのメリットがある一方、企業側には当然、別の問題が生まれます。

「55円アップ」は、全員の給料が55円上がるという意味ではない

ここは最低賃金について、特に誤解されやすいところです。
「最低賃金が55円上がる」と聞くと、すべての従業員の時給が55円アップするように感じるかもしれません。
しかし、そうではありません。

最低賃金の引き上げは、企業が支払わなければならない賃金の最低ラインが上がるということです。

例えば、長野県で1,061円から1,117円になった場合、これまで時給1,061円だった人は、最低でも1,117円以上にする必要があります。
一方で、すでに時給1,300円の人まで、法律によって1,356円にする必要があるわけではありません。

つまり、
最低賃金の引き上げ=全従業員の一律賃上げ
ではありません。

それでも企業の人件費が増えるのはなぜ?

最低賃金付近で働く人が多い企業では、直接的に人件費が増えます。
例えば、時給1,061円の従業員が1,117円になり、月160時間働くとします。

56円×160時間=8,960円/月

  • 1人あたり月8,960円の増加です。
  • 10人なら単純計算で月89,600円。
  • 1年間では100万円を超える人件費増になります。

もちろん、実際の負担額は従業員数や勤務時間などによって異なります。
さらに、企業が考えなければならないのは、単純な人件費の増加だけではありません。

「新人とベテランの給料がほとんど同じ」に?

例えば、

  • 新しく入った人:時給1,061円
  • 経験のある人:時給1,100円

という会社があったとします。

最低賃金が1,117円になれば、新しく入った人の時給は1,117円以上にする必要があります。
すると、経験のある人との差は、
39円 → -17円
となり、場合によっては給与が逆転してしまいます。

もちろん、実際の賃金制度は企業ごとに異なりますが、最低賃金の引き上げによって、こうした賃金バランスの見直しが必要になるケースがあります。
最低賃金の引き上げは、最低賃金付近で働く人だけの問題ではありません。
会社全体の給与体系を考え直すきっかけにもなるのです。

さらに進む「新卒の初任給アップ」

ここで、採用を考える企業にとって無視できないもう一つの変化があります。
それが、新卒の初任給引き上げです。
ここは最低賃金とは違います。
新卒の初任給を引き上げることは、法律上の義務ではありません。

企業が初任給を引き上げる理由
  • 人材を採用したい
  • 大手企業との採用競争に勝ちたい
  • 物価上昇に対応したい
  • 若手社員の待遇を改善したい
  • 給与制度全体を見直したい

といった理由から、それぞれの判断で行っています。
ところが、今はこの初任給の引き上げがかなり広がっています。

【初任給の引き上げ状況】

  • 2027年卒の新卒採用を行う企業を対象にしたマイナビの調査では、初任給を引き上げた企業は89.1%、平均支給額は23万7,903円でした。企業規模を問わず、初任給の引き上げが進んでいます。
  • また、帝国データバンクの2026年度調査でも、2026年4月入社の新卒社員について、67.5%の企業が初任給を引き上げ、平均引き上げ額は9,462円でした。
項目 引き上げの理由
最低賃金 法律によって最低ラインが上がる。
新卒の初任給 企業同士の採用競争によって上がっている。

つまり、この2つは別の話ですが、企業の採用環境を考えるうえでは、どちらも無視できません。

「給与を上げ続ける」だけで採用競争に勝てるのか?

ここで中小企業が考えたい問題があります。
給与を上げることは、もちろん重要です。
しかし、給与だけで採用競争を続けることには限界があります。

例えば、
A社「初任給23万円」
B社「初任給24万円」
C社「初任給25万円」
となれば、より高い給与を提示できる企業が有利になります。

実際、帝国データバンクの調査では、2026年度の初任給が25万円以上の企業は、大企業では30.0%だったのに対し、中小企業では17.0%でした。企業規模による初任給水準の差も残っています。

もちろん、中小企業が大手企業と同じ給与を提示できるなら、それに越したことはありません。
しかし、資金力には限界があります。
だからこそ、
「給与以外に、何を伝えるか」
が重要になってきます。

中小企業が陥りやすい「採用発信の3つの罠」

罠①「給与を上げれば応募が増える」と考えてしまう

給与は、求職者にとって重要な条件です。
しかし、給与を上げれば必ず応募が増えるとは限りません。
なぜなら、競合企業も同じように給与を上げている可能性があるからです。

給与は「応募するかどうか」を判断する重要な条件の一つ。
一方で、
「なぜ、この会社で働くのか」
を決める情報は、それだけではありません。

罠②「アットホーム」「働きやすい」で終わってしまう

採用ページでよく見る、
「アットホームな職場です」
「働きやすい環境です」
「やりがいのある仕事です」
という言葉。

もちろん、企業側からすれば本当のことかもしれません。
ただ、求職者からすると、
「具体的にはどういうこと?」
となってしまいます。

例えば「働きやすい」なら
  • 残業は月何時間なのか
  • 有給休暇はどれくらい取得されているのか
  • 子育て中の社員はどのように働いているのか
  • 未経験者はどのように仕事を覚えるのか
  • 入社後にどんなキャリアを描けるのか

まで伝える。
「アットホーム」という言葉より、実際の社員や働き方を見せる。
その方が、求職者は自分が働く姿を想像しやすくなります。

罠③「求人票を出して終わり」になってしまう

求人票には、給与や勤務時間、休日、仕事内容など、求職者にとって重要な情報が掲載されています。
しかし、求人票だけでは伝えきれないこともあります。

  • 「どんな人が働いているのか」
  • 「会社は何を大切にしているのか」
  • 「実際の職場の雰囲気はどうなのか」
  • 「この仕事の面白さは何なのか」

こうした情報を知りたい人は、求人票を見た後に会社のホームページやSNSなどを調べることもあります。
だからこそ、
求人票を「入口」として、その先に会社を知ってもらえる情報を用意しておく。
これが採用発信では重要になります。

これからの採用は「条件」だけでなく「働くイメージ」を伝える

最低賃金の引き上げも、新卒の初任給アップも、企業にとっては「給与」という数字の問題に見えます。
しかし、その先にあるのは人材獲得競争です。

給与を上げることは必要かもしれない。
けれど、それだけでは競合との差を作れない。
だからこそ、
「この会社で働いたら、どんな毎日になるのか」
を伝えることが重要になります。

給与額だけでは分からない「会社の価値」の例
  • 実際に働いている社員の声
  • 仕事の1日の流れ
  • 入社後の研修
  • 未経験から成長した社員の事例
  • 職場の写真や動画
  • 会社が大切にしている考え方
  • どんな人が活躍しているのか
  • どんな働き方ができるのか

こうした情報は、給与額だけでは分からない「会社の価値」です。
そして、これらは大企業だけが持っているものではありません。
むしろ、社員との距離が近いことや、経営者の考えが直接伝わること、地域とのつながりが強いことなど、中小企業だからこそ伝えられる魅力もあります。

最低賃金の引き上げを「採用発信の見直し」のきっかけに

2026年の最低賃金引き上げは、企業にとって人件費が増えるという側面があります。
しかし同時に、自社の採用について考え直すきっかけにもなります。

「給与をいくらにするか」だけではなく、
「給与以外に、求職者へ何を伝えられているだろう?」
と考えてみる。
最低賃金が上がり、新卒の初任給も上がっていく。

そんな時代だからこそ、企業には「働く人への待遇」と「自社の魅力を伝える力」の両方が求められています。

給与を上げることと、会社の魅力を伝えること。
どちらか一方ではなく、両方から採用力を高めていく。
2026年の最低賃金引き上げを、自社の採用発信を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

明日から見直せる「採用発信」5つのチェック

  • □ 給与以外の魅力を具体的に書いているか?
    「働きやすい」ではなく、残業時間や休暇、働き方など、数字や実例で伝えられているか。
  • □ 実際に働いている人が見えるか?
    社員インタビューや仕事中の写真など、「どんな人と働くのか」が分かる情報があるか。
  • □ 仕事内容を具体的に説明しているか?
    「営業」「事務」「農機具の整備」などの職種名だけでなく、1日の仕事や入社後の流れまで想像できるか。
  • □ 求人票の外に情報があるか?
    求人サイトだけでなく、自社ホームページやSNSなどで会社の雰囲気や考え方を知ることができるか。
  • □ 「この会社で働く理由」を伝えられているか?
    給与や休日などの条件だけを並べるのではなく、「なぜこの仕事なのか」「なぜこの会社なのか」が伝わっているか。

すべてに「YES」と答えられなくても問題ありません。
まずは一つ、「求職者がもっと知りたいと思いそうなのに、まだ伝えられていない情報」を探してみることから始めてみましょう。

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