【2026年確定申告】農家のインボイス終了?「2割特例」後の増税を防ぐ3つの対策
「インボイスに登録したけれど、消費税の計算は難しいから後回しにしていた」「定額減税は2024年だけの話だと思っていたけれど、今年の確定申告でも何か関係があるの?」 農家の皆さん、いよいよ重要な時期がやってきました。2026年(令和8年)の確定申告は、これまでの数年間続いてきた激変緩和措置が切り替わる「一つの大きな転換点」といえるかもしれません。
特に、免税事業者から課税事業者になった農家の方々を支えてきた、納税額を売上の2%に抑えられる「2割特例」という制度が、いよいよ終了への期限を迎えようとしています。さらに、所得税の負担を軽減する定額減税についても、個人事業主である農家は、この確定申告において適切な項目へ記載を行うことで、その制度の恩恵をしっかりと受けることができるのです。
事前の準備を十分に行わないまま申告を終えてしまうと、翌年以降の税負担が想定以上に膨らんでしまったり、本来活用できたはずの控除を受けられなくなってしまったりする可能性があります。本記事では、2026年現在の最新ルールを整理し、農家の皆様が今後の経営において落ち着いて対応するための出口戦略を詳しく解説します。
1. そもそも「2割特例」の適用期間はいつまで?
インボイス制度が2023年に導入された際、急激な負担増加を和らげるための措置として用意されたのが「2割特例」です。 これは「売上税額(預かった消費税)の20%を納税額とする」という非常に簡便な計算方法で、事務的な手間も、実際の税負担も大きく軽減されてきました。多くの農家様が、この特例があることを前提にインボイス登録を選択されたという背景があるのではないでしょうか。
しかし、この制度はあくまで「期間限定の経過措置」として設けられています。
令和8年(2026年)分が最終適用
国税庁の規定によれば、2割特例の対象期間は「令和5年10月1日から令和8年12月31日までの日の属する各課税期間」とされています(※①)。個人事業主である農家の場合、2026年12月31日をもってこの特例は終了します。つまり、現在準備されている確定申告、そして来年に行う申告を含め、この特例が使える期間はあとわずかです。
2027年からは「原則的なルール」が適用される
2027年1月からは、ご自身の経営状況に合わせて「本則課税」または「簡易課税」のいずれかを選択して納税を行う必要があります。「インボイス登録をしていれば、ずっと売上の2%を納めればよい」という認識がもしあったならば、それは今後の経営計画において見直しが必要なポイントです。今この時期に、次のステップへの検討を始めることが推奨されます。

2. 特例終了後の負担変化を具体的数値でシミュレーション
では、特例が終了した後に具体的にどのような変化が起こる可能性があるのか、「売上1,100万円(税込)、経費330万円(税込)」という農家の一般的な規模を例に、複数のパターンで比較してみましょう。
① これまでのケース:2割特例の場合
計算式: 売上税額100万円 × 20% 納税額: 20万円
これまでは特例により売上の約2%の納税で済んでいたため、資金繰りへの影響も最小限に抑えられていました。
② 特例終了後:本則課税(原則)を選択した場合
本則課税とは、受け取った消費税から、実際に支払った消費税(領収書等に基づき計算したもの)を差し引く本来の計算方法です。
計算式: 売上税額100万円 - 支払税額30万円 納税額: 70万円
何の届出もせず自動的に本則課税が適用されると、納税額はこれまでの数倍に達する計算になります。これは農機具のメンテナンス費用や、新たな資材の購入資金にも影響を与えるような大きな差額となり得ます。
③ 特例終了後:簡易課税を選択した場合
簡易課税とは、実際の経費額にかかわらず、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を用いて計算する方法です。農業は「第4種事業」に該当し、売上税額の70%を経費分としてみなすことができます。
計算式: 売上税額100万円 × 30%(100%-70%) 納税額: 30万円
このように、2割特例終了後も「簡易課税」を適切に選択することで、本則課税に比べて納税額を抑えられる可能性があります。資材費や燃料費の価格が不安定な昨今、この納税額の差は経営の安定性を左右する重要な要素となるでしょう。
3. 【重要】2026年中に「簡易課税選択届出書」を検討すべき方
シミュレーションが示す通り、多くの農家様にとって、今後の負担を緩やかにする有効な手段の一つが「簡易課税」です。しかし、この制度を利用するためには、税制上の重要な手続きが必要となります。
それは、「簡易課税を適用したい期間が始まる前に、届出書を提出しておく必要がある」という点です。
2026年12月31日が一つの期限
2027年分から簡易課税を適用したい場合、原則としてその前年、つまり2026年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署へ提出しておく必要があります(※②)。 「次回の確定申告の時に伝えれば大丈夫」と考えがちですが、それでは適用が1年遅れてしまうことになります。期日を過ぎてしまうと、その年は選択の余地なく本則課税が適用される点に注意が必要です。
簡易課税の検討が推奨されるケース
特に以下のような状況にある農家様は、簡易課税への切り替えを検討する価値があると考えられます。
- 家族経営で人件費の比率が高い:
給与には消費税が含まれないため、本則課税では仕入税額控除の対象にならず、税負担が増えやすくなります。 - 仕入額が売上の70%を下回っている:
農業のみなし仕入率(70%)よりも、実際の課税対象となる経費が少ない場合は、簡易課税の方が有利になる傾向があります。 - 事務負担を軽減したい:
簡易課税であれば、すべての領収書がインボイス要件を満たしているかを精査する負担が大幅に軽減されます。
ただし、大規模な施設建設や高額な農機の導入予定がある場合は、本則課税の方が還付を受けられるなど有利になるケースもあります。ご自身の今後の投資計画と照らし合わせ、2026年中に判断することが大切です。
4. 「農協特例・卸売市場特例」に関する注意点
「うちはJA(農協)への全量出荷が中心だから、インボイスの手続きはあまり関係ない」というお声を現場で伺うことがあります。しかし、ここには誤解が含まれている場合があります。
特例は「書類発行の手間」に関するもので、「納税」の免除ではない
農協特例や卸売市場特例は、あくまで「出荷先(JAや市場)に対して、農家側がインボイスを発行する手間を省略できる」という事務上の配慮に過ぎません(※③)。 ご自身が「インボイス登録事業者」になっているのであれば、出荷先がどこであっても消費税の申告・納税義務は発生します。そして「2割特例」が終わる2027年以降は、JA出荷の売上に対しても、同様に本則または簡易の計算ルールが適用されることになります。
直売や外部取引がある場合は管理が重要
JA出荷以外に、直売所への出品、飲食店との直接取引、個人の方への配送販売を行っている場合は、それらはこれらの特例の対象外となります。2割特例が終了する2027年以降は、これらの取引についてより精度の高い帳簿管理が求められることになります。将来的な税務上の不安を解消するためにも、今のうちから準備を進めておくことが望ましいでしょう。
5. 定額減税の適用を確認!確定申告時のポイント
消費税の話題が続きましたが、一方で活用できる優遇制度もしっかり確認しておきましょう。それが「所得税の定額減税」です。 これは、納税者本人3万円+扶養家族1人につき3万円が、所得税額から直接差し引かれる制度です。会社員の方は給与天引きの段階で反映されていることが多いですが、個人事業主である農家は、2026年(令和8年)の確定申告を通じて初めて、この減税の恩恵を具体的に受けることができます。
申告書作成時のチェックポイント
- 第一表の「特別税額控除」欄を記載:
申告書の第一表にある「令和6年分特別税額控除額」などの専用欄(※④)に、算出された控除額を正しく記入してください。ここを空欄にしてしまうと、本来受けられるはずの減税が反映されません。 - 第二表の家族情報を正確に:
配偶者や扶養親族の氏名・生年月日・マイナンバーを第二表に漏れなく記載してください。これが控除額を決定する根拠となります。 - 「調整給付」についても確認を:
「所得が一定以下で、減税額をすべて引ききれない」という場合でも、申告は必要です。引ききれなかった分については、自治体から別途「給付金」として支払われる仕組みになっています。申告を正しく行うことが、これらの支援を受けるための前提条件となります。
家族構成によっては大きな金額となるこの制度を、肥料代や燃料代といった諸経費の補填、あるいは次期に向けた準備資金として有効に活用していただきたいと思います。
6. 執筆者の視点:農機具店として農家様の経営に寄り添う
私自身も、昨今の物価高騰は、農機のメンテナンス部品代一つとっても、現場の皆様に大きな負担となっていることを肌で感じています。
そうした厳しい環境下で、「制度の仕組みを把握しきれなかったために、本来避けることができた負担が生じてしまった」という事態は、できる限り防ぎたいというのが私たちの願いです。私たちは農機具の販売・修理を本業としていますが、それ以上に、お客様である農家の皆様が安定して利益を出し、元気に農業を続けていけることが、地域の農業にとっても、私たちにとっても最も大切なことだと考えています。
農機具を定期的に点検して長く大切に使うのと同様に、経営の数字や税制という「仕組みのメンテナンス」も欠かせません。2026年の確定申告という時期を、単なる事務作業の期間としてではなく、「2027年以降にどのように現金を確保し、次の設備投資や規模拡大につなげるか」という経営戦略を練るための、一つのきっかけとして捉えていただければ幸いです。
7. まとめ:今から取り組める準備事項
「2026年」という区切りは、事前に知識を持って対応すれば、経営をより堅実なものにする機会になります。今後の負担を適切にコントロールするために、以下のステップを検討してみてください。
- ステップ1: 直近の売上と経費を振り返り、「簡易課税」と「本則課税」のどちらが自身の経営スタイルに合っているかを、一度シミュレーションしてみる。
- ステップ2: もし簡易課税の選択が有利だと判断した場合は、2026年12月31日までに忘れずに届出書を税務署へ提出する。
- ステップ3: 今年の確定申告書において、定額減税などの控除項目に記入漏れがないか、改めて再確認を行う。
農業においては、作物を育てる優れた技術とともに、経営の数字を適切に管理する力も非常に重要です。唐沢農機サービスは、これからも農機の提供だけでなく、農家の皆様が持続可能な経営を歩んでいけるよう、有益な情報発信に努めてまいります。 まずは今年の確定申告において、しっかりと準備を整え、次の一年に向けたより良いスタートを切りましょう。

本ブログ記事は下記の参考元を参照、引用し、執筆者の見解を加えて執筆しています。
■参考・引用元
(※①)国税庁:2割特例(適格請求書発行事業者となる小規模事業者に対する税額控除に関する経過措置)の概要
(※②)国税庁:消費税簡易課税制度選択届出手続
(※③)農林水産省:農業分野におけるインボイス制度への対応