米不足は終わっていない。選挙で問うべき“後継者の空白”と食卓の未来
はじめに:食料品ゼロ税の前に、私たちが直視すべきこと
「食料品の消費税をゼロに」——選挙の季節、この言葉が強いのは家計に“今すぐ効く”からです。けれど、昨年の米不足と価格高騰を経験した私たちが本当に恐れるべきは、税率よりも供給そのものかもしれません。
減税で買いやすくなっても、つくる人が減れば、米は増えない。所得補償を厚くしても、継ぐ人がいなければ地域の生産基盤は先細る。国防や安全保障を語っても、国内で食料を回す人がいなければ「再起動」はできない。
本稿では、いまの選挙争点を次の4つの切り口で整理し、最後に一本の結論へ束ねます。
- 食卓の危機(米不足)
- 所得補償(お金)
- 国防・安全保障としての農業
- 農票(農家の組織票)の行方
1. なぜ今、争点が「食」に集中しているのか
食料品の消費税や物価対策は、生活者にとって分かりやすく、政治にとっても訴えやすいテーマです。一方で「食の不安」は、単に支払いの問題ではなく、届く量=供給能力の問題でもあります。
そして昨年の米不足は、需給見通しや気象影響の話にとどまりませんでした。私たちが体感したのは、もっと根源的な不安です。
「足りないかもしれない」ではなく、「足りなくなり得る国になっていた」という感覚。
ここから先は、政策の好き嫌いではなく、構造の話として読み解く必要があります。
2. 「食卓の危機(米不足)」から後継者を考える
2-1. 米不足は“供給ショック”というより「余力がなくなったサイン」
米不足は、天候や需給のズレだけが原因ではありません。農業は、短期的に増産しにくい産業です。田んぼは今日広がらず、熟練者も明日増えません。つまり、供給の余力が薄い状態では、ちょっとしたズレが一気に「不足」として表面化します。
2-2. 「後継者がいない=食料が届かない」は比喩ではなく現実
後継者不足は「農家の家の事情」として片付けられがちです。しかし、現実には供給網そのものに直結します。
- 田んぼを管理する人がいなくなる
- 用水や畦畔の維持が難しくなる
- 機械更新や乾燥調製の投資が止まる
- 収穫〜出荷の段取りを回せなくなる
これらはすべて、最終的に「店頭に並ぶ量」と「価格」に変換されます。
つまり後継者不足は、食卓のインフラ不全です。
2-3. 「価格が上がれば作る人が増える」は農業では起きにくい
教科書的には、価格上昇は供給を増やします。しかし農業は、増産に時間と資本が必要で、天候や資材価格のリスクも大きい。さらに、価格が来年も続く保証はありません。だから「高くなったから来年から参入」が起こりにくい。ここに、米不足が“生活の不安”になった理由があります。
2-4. 解決策は「新規就農」だけでなく「継ぐ仕組み」を増やすこと
現実解として強いのが、第三者承継(アトツギ)です。ゼロからの新規就農はコストが重い一方、承継なら資産・販路・技術・地域の信用を引き継ぎやすい。
- 既存の農地・機械・施設がある
- 取引先や地域の信頼が引き継がれる
- 「立ち上げ」ではなく「改善・成長」に力を使える
米不足の議論を、単なる作付けや備蓄の話で終わらせず、担い手を増やす設計へつなげることが、次の不足への最も堅実な備えになります。
3. 「所得補償(お金)」の政策論争に切り込む
ここは与野党で割れやすい論点です。ざっくり言えば、次の対立軸が生まれます。
- 農家への直接支払い(所得補償)を厚くする
- 大規模化・効率化支援で競争力を上げる
3-1. 所得補償は「離農を防ぐ保険」として強い
所得補償の強みは、収益が揺れても「来年もう一回やれる」状態を作れることです。地域の農地や担い手を守る“土台”になります。
ただし設計を誤ると、下支えが「現状維持の延命」になり、次世代が魅力を感じにくくなる危険があります。
3-2. 効率化支援は「稼げる構造」を作るエンジンになり得る
省力化・スマート農業・集約・設備投資などは、若者にとって魅力があります。努力と投資が報われる見通しが立ちやすいからです。
一方で、効率化が「強いところがさらに強くなる」だけに偏ると、地域の中小が抜けて、用水や共同管理の基盤が壊れることもあります。
3-3. 結論:若者に魅力的なのは“二択”ではなく「下支え+成長」
若者が見ているのは精神論ではなく、現実的にこの2点です。
- 赤字に落ちにくい安全網(下支え)
- 伸ばせば増える設計(成長)
だから本当は、所得補償か効率化か、ではありません。
保険(下支え)+エンジン(成長)が揃った地域・経営が、結果として担い手を呼び込みます。
そして両者を“効く形”にする装置が、実は承継です。継いだ瞬間から、投資回収や改善にエネルギーを使えるからです。
4. 「国防・安全保障」としての農業
防衛の議論が熱い今こそ、「食料も防衛の一部」という視点が現実味を帯びます。危機に弱いのは、装備の数だけではありません。生活の根幹である食料とエネルギーが詰まれば、社会は静かに弱っていきます。
4-1. 守るべきは備蓄だけでなく「生産の再起動能力」
本番で問われるのは、国内で増産へ切り替えられる力です。必要なのは、
- 連続した農地(荒れていない)
- 用水の維持
- 乾燥調製・貯蔵・物流
- 機械と、それを扱える人(担い手)
ここでも最後に残るのは「人」です。担い手の空白は、そのまま国の脆弱性になります。
4-2. 農業×テクノロジーは“安全保障の実務”になる
スマート農業やデータ活用は、便利だからではなく、担い手不足の時代に生産を維持するためのインフラです。
少人数でも回る現場が増えれば、承継もしやすくなり、危機時の再起動能力も上がります。

5. 「農票(農家の組織票)」の行方
5-1. 農家が減れば「まとまった票」は物理的に細る
農業経営体が減るほど、票の総量は減ります。農票は巨大な塊から、地域ごとに濃淡がある分散した票へ変わっていきます。
5-2. 本質は「弱体化」だけでなく「多様化」
農家の中でも、稲作中心、園芸・畜産、法人経営、兼業・高齢などで利害が分かれます。求める政策も一枚岩ではありません。だから「農票=同じ方向へ動く」という見方自体が、現場の実感からズレ始めています。
5-3. だからこそ、農業は“票”ではなく“生活インフラ”として語り直す必要がある
争点が生活者へ寄るほど、農業は「票の力」だけでは優先されにくい。
そこで必要になるのが、食卓・地域・安全保障の言語で、農業を説明し、理解を獲得することです。結局それを支えるのは、担い手と承継の設計です。
6. 結局、選挙で見るべき“たった1つの基準”
ここまでの4論点は、全部この問いに収束します。
その政策は、担い手を増やすか?農地を「継げる形」にするか?
減税も補償も国防も、担い手がいなければ空回りします。
だから解決の現実解は、精神論ではなく 「承継×経営×テック」 の三点セットです。
- 承継:第三者承継で、ゼロから始めない
- 経営:原価・投資回収・販路で「稼げる農業」へ
- テック:少人数でも回る現場を作り、継承の難易度を下げる
この三つが揃ったとき、政策は“効く”形になります。
おわりに:選挙は「食卓の未来」を選ぶ機会
選挙はどうしても、今日の損得に寄ります。けれど食は、今日だけでなく明日も必要です。米不足が突きつけたのは、「食卓は当たり前ではない」という現実でした。
だからこそ、私たちは“分かりやすい言葉”の向こう側を見たい。
担い手は増えるのか。継げる仕組みは作れるのか。農地は回るのか。
この基準で争点を読み直すことが、結果として生活者の安心につながるはずです。
もし「託したい」「継ぎたい」があるなら、承継を“仕組み”にすることが第一歩になります。承継は引き継いだ瞬間がゴールではなく、そこからの黒字化・安定化が本番です。唐沢農機サービスのような現場実務のパートナーは、機械や省力化だけでなく「回る形」づくりの伴走役として力になります。
食卓の未来は、現場の継承から始まります。
FAQ(よくある疑問)
Q1. 令和の米騒動(米不足)の原因は結局なに?
A. 気象影響、需要の想定差、流通・在庫のタイト化など複合要因が重なり、不足が表面化しました。重要なのは「ズレを吸収できる余力が薄い」点です。
Q2. 食料品の消費税ゼロで米不足は解決する?
A. 家計負担は軽くなり得ますが、供給(生産・流通)が増える施策ではありません。担い手と生産基盤の維持がセットで必要です。
Q3. 所得補償(直接支払い)は若者にメリットがある?
A. 下支えとしては有効です。ただし“現状維持”で止まる設計だと魅力が弱いので、投資や成長の道筋とセットが重要です。
Q4. 大規模化・効率化支援は弱い農家の切り捨て?
A. そうなり得る副作用があります。地域の水利や共同管理が壊れない設計(承継や集約の手順)が鍵です。
Q5. 後継者不足を現実的に解く方法は?
A. 新規就農支援に加えて、第三者承継を増やすことが現実解です。資産・販路・技術を引き継ぎ、経営とテックで安定化する流れが必要です。
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