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【徹底解説】高市早苗氏の農業政策、自給率「限りなく100%」構想の勝算は?稼げる農業への3つの柱とは

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はじめに:私たちの食卓は大丈夫?なぜ今、食料安全保障が重要なのか

私たちの食卓に並ぶ食料の約6割が、海外からの輸入に頼っているという事実をご存知でしょうか。日本の食料自給率はカロリーベースでわずか38%に過ぎません。近年の世界的な物価高騰や不安定な国際情勢は、私たちの生活に直接影響を与えています。この状況は、食料供給が国家の存立基盤そのものを揺るかしかねないという、経済安全保障上の根本的な脆弱性を示しています。

本記事では、経済安全保障担当大臣などを歴任した高市早苗氏が提唱する農業政策に焦点を当てます。彼女の政策は単なる産業振興策ではなく、食料問題を経済安全保障という国家戦略の中核に据えるものです。本稿では、彼女が掲げる「食料自給率を限りなく100%に近づける」という野心的な目標と、「稼げる農業」への転換というビジョンについて、その背景にある日本の課題から具体的な政策、そして実現可能性までを、政策アナリストの視点から徹底的に解説します。

1. 日本の「食」が直面する深刻な課題

高市氏の政策を理解する上で、まず日本の農業が抱える構造的な課題を直視する必要があります。主な課題は以下の通りです。

・低い食料自給率
前述の通り、カロリーベースで38%という水準は、主要先進国の中でも極めて低い状況です。有事の際には国民の生命維持に直結する深刻なリスクとなります。

・生産者の高齢化と後継者不足
農業従事者の減少と高齢化は、国内の生産基盤そのものを揺るがす根本的な問題であり、耕作放棄地の増加にもつながっています。

・生産コストの高騰
国際情勢の緊迫化や円安を背景に、肥料、飼料、燃料などの価格が歴史的な水準まで高騰し、多くの農業者の経営を圧迫しています。

・地政学リスクとサプライチェーンの脆弱性
食料だけでなく、肥料原料の多くを中国など特定の国に依存している現状は、経済安全保障上の大きな弱点です。サプライチェーンが途絶すれば、国内生産そのものが立ち行かなくなる恐れがあります。

・消費者の意識: MS&ADインターリスク総研の調査(2024年)によると、「食料安全保障」という言葉を知っている消費者は2割未満に留まります。一方で、日本の食料安全保障が達成されていないと考える人は6割を超えています。この高い不安感(6割超が不安)と低い認知度(2割未満が認知)のギャップは、高市氏が提唱するような、国民が漠然と感じている問題を明確に言語化し、解決策を示す政策に対する政治的な追い風を生む土壌となっていると言えるでしょう。

2. 高市氏が掲げる農業の未来像:「稼げる農業」と自給率「限りなく100%」への挑戦

これらの深刻な課題に対し、高市氏は2つの大きなビジョンを掲げています。

①「稼げる農業」への転換

従来の保護・維持を中心とした守りの農政から脱却し、農業を国の成長産業と位置づけ、収益性を高めるための構造改革と技術革新を目指します。

②「食料自給率を限りなく100%に近づける」

 食料安全保障を国家の最重要課題と捉え、国内生産能力を最大限に引き上げる野心的な目標を設定します。

この政策の根幹にあるのは、目先の危機に対応する「緊急支援」と、未来の成長基盤を築く「成長戦略」を両立させようという強い意志です。これは、食料問題を経済安全保障の文脈で捉え直す、彼女の国家観の表れでもあります。

3. 高市農業政策の3本柱を徹底解剖

高市氏の構想は、日本の食料における国家的なレジリエンス(強靭性)を構築するための、以下の3つの柱で構成されています。

3.1 柱①【緊急支援】:国内レジリエンスの基盤を安定化させる「現場主義」

「農政は現場が第一」という理念に基づき、喫緊の課題に苦しむ生産者への迅速な支援を重視しています。これは、国内の食料生産基盤というレジリエンスの土台を安定させるための危機対応策です。

・資材高騰への対策
農業用ハウスの暖房や物流コストに直結する燃料価格に対し、暫定税率の見直しを検討。また、肥料・飼料高騰で赤字経営に陥った農業者に対しては、「制度の抜本改正を待たずに」、既存の補助金や交付金を活用したスピーディーな資金支援を行う方針を示しています。これは恒久策ではなく、あくまで緊急の止血措置としての位置づけです。

・地域の実情に応じた支援
全国一律の政策ではなく、中山間地の維持管理や鳥獣被害対策など、地域ごとに異なる課題に柔軟に対応できる、使途の自由度が高い交付金制度の拡充を提言しています。

3.2 柱②【構造改革】:食料自給に向けた経済構造改革

長年続いてきた生産抑制型の農政から、生産者の意欲と収益性を引き出す「攻めの農政」への転換を目指します。これは、食料の自給自足に向けた経済構造そのものを変革する試みです。

・減反政策の見直し
米の需給安定を目的としてきた生産調整(減反)について、「米を作るな」というメッセージが生産者の意欲を削いできたと指摘。これは単なる政策の微調整ではなく、戦後の農業政策の根幹であった生産管理からの脱却を意味します。余剰管理から国内生産能力の最大化へと、国家戦略としての哲学を根本的に転換する提案です。

・需要に基づいた生産支援
政府が生産量を調整するのではなく、国内外の需要を分析した精度の高い予測データを生産者に提供。生産者が自らの経営判断で市場ニーズに合った生産を行える体制を構築します。

・米の新たな需要創出
主食用米だけでなく、飼料用米や、パン・麺類への活用が期待される米粉、バイオマス燃料、そして輸出など、米の多様な用途を促進し、水田の収益機会を拡大します。

・効率化の推進
分散した農地を集約・大区画化し、大型機械の導入による「規模の経済」を追求します。同時に、AIによる生育管理、ドローンによる農薬散布、準天頂衛星システム(QZSS)を活用した自動走行農機など、スマート農業の導入を加速させ、労働力不足を補い生産性を向上させます。

3.3 柱③【技術革新】:技術主権への投資と輸出強化

日本の農業を、気候変動や国際情勢に左右されない強靭な成長産業へと変革させるための、未来への投資です。これは、食料分野における日本の「技術主権」を確立するための戦略です。

場所にとらわれない農業:

・完全閉鎖型植物工場
天候や災害の影響を受けずに高品質な農産物を計画的に生産できる植物工場の技術開発と普及を強力に支援します。高市氏が指摘するように、日本企業が開発したモジュール型工場は、従来型の約5倍の生産性を誇り、災害時の食料供給拠点としても期待されています。

・陸上養殖
海洋環境の変化に影響されない陸上養殖技術の開発を加速させます。近年、これまで不可能とされたイカの養殖に成功するなど、日本の技術は大きく進展しており、水産物の安定供給に貢献します。

・デュアル輸出戦略の強化
このビジョンは、日本の高付加価値な農林水産物(コメ、和牛など)を輸出するだけでなく、植物工場や陸上養殖といった日本の高度な農業「システム」そのものを海外に輸出するという、二正面の輸出戦略を描いています。これにより、「稼げる農業」モデルに新たな技術主導の収益源を創出します。

・知財・種苗の保護
日本が開発した優れた品種が海外へ不正に流出することを防ぐため、種苗法などに基づいた知的財産の保護を厳格化し、日本の技術的優位性を守ります。

4. 食料は「経済安全保障」の要 – 肥料問題から見る国家戦略

高市氏の農業政策は、単なる産業政策にとどまらず、より大きな国家戦略である「経済安全保障」と密接に連携しています。その象徴的な例が肥料問題です。

経済安全保障推進法に基づき、「特定重要物資」(国民の生存や経済活動に不可欠でありながら供給を他国に過度に依存し、供給途絶リスクのある物資)が指定されていますが、その一つに「肥料」が含まれています。日本の肥料は、その原料のほとんどを輸入に頼っており、特にリン鉱石や塩化カリウムは中国など特定の国に産地が偏在しています。2021年秋以降、中国の輸出制限やウクライナ情勢の影響で供給途絶リスクが現実のものとなりました。

これに対し、国は以下の対策を進めています。

・備蓄の支援
民間事業者が輸入可能な時期に肥料原料を備蓄する際の費用を国が支援する。

・国内での代替原料・新肥料開発
国内の未利用資源を活用した肥料開発などを支援し、海外依存からの脱却を図る。

このように、食料生産に不可欠な資材のサプライチェーンを強靭化することは、食料安全保障の根幹であり、農業政策が国家の安全保障そのものであることを示しています。

5. まとめ:高市氏の描く「強い農業」は日本の未来を変えるか

高市早苗氏が提唱する農業政策は、2つの明確な側面を持っています。

①危機対応

資材高騰などに苦しむ生産現場に対し、スピード感のある支援で足元を固める。

②成長戦略

減反政策の見直しやスマート農業、植物工場といった「構造改革」と「技術革新」を通じて、農業を収益性の高い成長産業へと変革させる。

高市氏の構想は、単なる産業振興策ではなく、食料を「国力」と再定義し、経済安全保障の基盤に据え直すという国家戦略の表明です。その成否は、財源論や業界調整といった実務的な課題を乗り越えられるかにかかっているが、それ以上に、日本の農業政策を長年規定してきた「守り」の発想から、「戦略的な攻め」へと国民全体の意識を転換できるかに懸かっていると言えよう。この挑戦が日本の農業、ひいては日本の未来をどう変えていくのか、注視していく必要があります。

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参照・出典一覧

政策情報・一次情報
  1. 高市早苗 公式政策サイト(自民党総裁選2025)
      https://sosaisen-sanae.com/policycontent
  2. 高市早苗 政策演説(YouTube)
      高市早苗チャンネル
      https://www.youtube.com/@takaichisanaechannel/videos
      ・【国家の品格】米や食料品などの物価高騰へ国家の支援は?
      ・【自民党総裁選】政権公約 食料安全保障政策について【食料自給率100%目標】
      ・【高市早苗に聞く】供給途絶のリスクに備える「特定重要物資」について
  3. 農林水産省公式情報
      ・食料安全保障とは
       https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/1.html
      ・日本農業の現状と課題
       https://www.maff.go.jp/j/wpaper/
      ・スマート農業推進事業
       https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/
ニュース・解説記事
  1. S&ADインターリスク総研株式会社(2025年4月16日).
    消費者の食料安全保障に関する意識について~アンケート調査結果より(2024年版).MSコンパスhttps://mscompass.ms-ins.com/business-news/food-security-questionary/ (2025年10月16日アクセス)
  2. 内外ニュースチャンネル(2025年4月)
    講演要約 高市氏202504 「日本の国力を強くするために」https://www.naigainews.jp/%E6%87%87%E8%AB%87%E4%BC%9A/%E6%87%87%E8%AB%87%E4%BC%9A%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%A6%81%E7%B4%84/%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%A6%81%E7%B4%84-%E9%AB%98%E5%B8%82%E6%B0%8F202504/
    (2025年10月16日アクセス)
  3. ポリシーニュース
    ポリシーニュース|高市早苗氏インタビュー
    https://www.policynews.jp/interview/2025/takaichi.html (2025年10月16日アクセス)