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日本の宝「シャインマスカット」が危ない!海外流出と対策の全貌を初心者にも分かりやすく解説

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1. はじめに:私たちの愛するシャインマスカットが危機に瀕している

輝くような黄緑色、弾けるような食感、そして口いっぱいに広がる芳醇な甘み。今や日本の食卓に欠かせない存在となった「シャインマスカット」は、まさに日本が世界に誇るブランド果実です。しかし、その日本の宝ともいえる果物が今、海外への不正流出という深刻な問題によって、その価値と未来が脅かされています。

この問題は単なる農業犯罪に留まりません。その対策をめぐり、日本の知的財産を海外展開で「活用」したい国と、国内ブランドとして「守り抜きたい」生産地との間で深刻な対立が生まれています。この記事では、シャインマスカットが直面する問題の全体像から、この根深い政策対立、そして日本の農業の未来を守るための糸口まで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。

2. そもそも「シャインマスカット」とは?- 日本が生んだ奇跡のぶどう

シャインマスカットは、日本が約30年という長い歳月をかけて開発し、ようやく世に出た、まさに技術の結晶です。その絶大な人気の理由は、他のぶどうにはない優れた特徴にあります。

強い甘み: 糖度が高く、芳醇なマスカットの香りが楽しめます。

種なしにできる: 栽培技術により種なしで育てることができ、食べやすさも抜群です。

皮ごと食べられる: パリッとした食感の皮は薄く、渋みがないため、そのまま食べられます。

その価値は価格にも表れており、例えば山梨県産のものでは1kgあたり約1550円で取引されることもある高級果実です。

3. シャインマスカットを蝕む「内憂外患」:不正流出と輸出不振の二重苦

日本の農業技術の粋を集めたシャインマスカットですが、現在、その未来を揺るがす2つの大きな問題、まさに「内なる憂い」と「外からの患い」に直面しています。

3.1. 問題①:止まらない海外への不正流出と無断栽培

シャインマスカットの苗木が海外へ不正に持ち出され、無断で栽培・販売されるケースが後を絶ちません。

中国の通販サイトを覗くと、日本産の10分の1以下という驚くような価格(例:2.5kgで約3000円)でシャインマスカットが販売されている実態があります。農林水産省の試算によれば、この不正流出による日本の経済的損失は、年間で約100億円以上にも上るとされています。(※1)

これはシャインマスカットだけの問題ではありません。過去には「あきひめ」や「レッドパール」といった日本のブランドいちごが韓国へ流出し、現地の主要品種になってしまった事例があります。さらに、石川県が14年かけて開発し、初競りでは一房100万円の値がついたこともある超高級ぶどう「ルビーロマン」までもが、無断で海外栽培されていると見られています。これは日本の高付加価値農業が直面する、根深く構造的な問題なのです。

3.2. 問題②:伸び悩む輸出と海外産との厳しい競争

この不正流出がもたらす影響は、単なる機会損失に留まりません。今や、日本が正規に開拓しようとしている輸出市場そのものを直撃し、深刻な競争を引き起こしているのです。

財務省の貿易統計によると、今年8月のぶどうの輸出量は、前年の同じ月と比較して41%も激減しました。その主な理由は以下の通りです。(※2)

主要輸出先の景気停滞
主な輸出先である香港では、物価の安い中国本土で買い物をする「北上消費」が加速するなど景気が停滞し、高価な日本産果実への消費が鈍っています。

海外産との競争激化
不正流出の結果、韓国や中国で生産された安価なシャインマスカット(とみられる品種)が台頭。特に韓国産は品質が年々向上しており、日本産の強力なライバルとなっています。

国内で開発した宝が海外で無断栽培され、さらには正規の輸出市場までも脅かすという、まさに八方塞がりの状況に陥っているのです。

4. 解決策をめぐる対立:国の「ライセンス契約」 vs 産地の「輸出拡大」

この危機に対し、国と産地が描く未来像は鋭く対立しています。その核心にあるのは、日本の知的財産を「活用」して海外で稼ぐべきか、あくまで「日本製」のブランドを「守る」べきかという根本的な思想の違いです。

4.1. 国が推進する「ライセンス契約」案とは?

農林水産省が検討しているのが、海外の国に栽培・販売する権利(ライセンス)を与え、その対価としてライセンス料を受け取るビジネスモデルです。

仕組み: 海外の国と正式に契約を結び、栽培ノウハウなどを提供する代わりに、ライセンス料を日本が受け取ります。

メリット:

    ◦ 正規の生産ルートを確立することで、不正な流通を抑制する効果が期待できます。

    ◦ 日本と季節が逆の南半球(例:ニュージーランド)で生産すれば、一年中シャインマスカットを世界に供給できます。

デメリット:

    ◦ 安価な海外産と高品質な日本産が市場で競合してしまう恐れがあります。これは生産者が最も懸念する点です。

    ◦ もし海外産の品質が劣った場合、「シャインマスカット」全体のブランドイメージが低下するリスクがあります。

    ◦ 得られたライセンス料は、品種を開発した国の研究機関などの「育成権者」に入ります。そのため、日々栽培に汗を流す日本の農家に直接利益が還元されにくいという構造的な課題があります。

4.2. 産地が求める「輸出拡大」案とは?

国のライセンス案がもたらす懸念への直接的な対抗策として、最大の生産地である山梨県などが強く主張しているのが、高品質な「日本産」の輸出を拡大するアプローチです。山梨県の長崎幸太郎知事は「徹底抗戦」の姿勢を表明しています。

考え方: 海外生産を安易に認めるのではなく、品質で圧倒的に勝る日本産シャインマスカットを直接海外に販売し、「メイド・イン・ジャパン」のブランドを確立することに注力すべきだという主張です。

メリット:

    ◦ 圧倒的な品質を誇る日本産は、国際競争で優位に立てる可能性が高いです。

    ◦ 輸出による利益が直接農家に入るため、生産者のモチベーション向上につながります。

デメリット:

    ◦ 海外での無断栽培を直接防ぐことはできず、根本的な解決にはなりません。

    ◦ 国ごとに異なる検疫の条件など、輸出には多くのハードルがあり、産地だけでの対応は困難です。

5. 解決への糸口は?日本の宝を本当に守るためにすべきこと

国と産地の意見が対立する中、私たちはどうすれば日本の宝を守れるのでしょうか。流通経済研究所の専門家・織笠俊介氏の意見を基に、解決への道筋を3つのポイントにまとめました。

1. 国の強力な輸出支援

産地や農家だけでは対応が難しい検疫問題の交渉や、輸入規制の緩和などを国が先頭に立って進めることが不可欠です。「日本産のものを海外で売る道筋」を国が責任を持って作り、産地の「輸出拡大」戦略を全力で後押しすることが第一歩となります。

2. 「日本製」ブランド価値の確立

安価な海外産と価格で競争する道は選ぶべきではありません。重要なのは、「日本産は圧倒的においしい」という事実を消費者に明確に伝えるブランディング戦略です。「シャインマスカットなら、やっぱり日本のがいいよね」と指名買いされるような「日本製」ブランドを確立することで、価格競争から脱却できます。

3. 農家を第一に考えた政策

ライセンス契約の利益が主に育成権者に行き、生産者に還元されにくいという構造が、この問題の根幹にあります。どんな対策を進めるにしても、最終的にその利益が生産者である農家にきちんと還元される仕組みが最も重要です。専門家が指摘するように、この構造的な課題を解決するためには、「まずは生産者のための施策が重要」なのです。

6. まとめ

シャインマスカットをめぐる問題は、単なる果物の海外流出に留まらず、日本の知的財産、ブランド戦略、そして農業政策そのものが問われる複雑な課題です。

日本の宝であるブランド果実を守り、未来へつなげていくためには、国と産地が対立するのではなく、手を取り合って連携することが不可欠です。そして、その中心には常に「圧倒的な品質」「世界に通用するブランド」、そして何よりも「汗を流す生産者」を大切にするという視点がなければなりません。このシャインマスカット問題への対応は、日本の長年の品種改良技術と、高付加価値ブランドの国際的な地位を確立できるかどうかの、まさに「正念場」となります。

📚 参考・出典

1. ABCテレビニュース

「シャインマスカット“海外流出” 無断販売も…損失は年間100億円以上か ライセンス契約めぐり山梨県と国は対立 日本の“ブランド果実”どう守る?【きょうの深掘り】」
https://youtu.be/FJ-nQpgP1_U?list=TLGG8ME-8Ri9uzAxNDEwMjAyNQ

2. Yahoo!ニュース
「シャインマスカットの輸出低調 輸出先の景気低迷、海外産と競争も」
https://news.yahoo.co.jp/articles/ca075226e9603cf24d21f7d09266252bbe899f43

3. TBSラジオ
「人気のシャインマスカット 国内では拡大 輸出には高い壁」
https://www.tbsradio.jp/articles/101409/