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減反政策は結局どうなる?最新の水田農業政策を農家目線で整理

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日本の水田農業は、制度変更・価格変動・米需要の長期的減少など複数の要因が重なり、大きな転換期を迎えています。その中で「減反政策」という言葉が繰り返し話題になり、「復活するのではないか」「本当に廃止されたのか」といった誤解も生まれています。本記事では、農林水産省(MAFF)が公開する一次情報を踏まえ、減反の現状、水田活用政策の方向性、そして農家が今後どのように向き合うべきかを整理します。


1.「減反」は本当に廃止されたのか?現在の制度状況

減反政策は、米の過剰生産を抑制し米価の下落を防ぐことを目的に、1970年から長く運用されてきました。2018年産以降、農林水産省は国による「主食用米の生産数量目標」の都道府県・産地への配分を廃止し、国が強制力を伴って作付けを抑制する仕組みとしての減反制度は終了しています。

その根拠となる一次情報として、農林水産省が公開する「主食用米の需給資料」には、生産数量目標制度の見直しの経緯や、現在の需給・価格安定の考え方が整理されています。

ただし重要な点として、「国の強制的な減反」は廃止されましたが、生産調整そのものが消えたわけではありません。米の需給バランスは市場価格に直結するため、地域の農業協議会や生産者団体が中心となる“自主的な作付調整”は現在も行われています。

整理すると、

  • 国による生産数量目標の割当(旧来の減反)=廃止済み
  • 地域主体による自主的な生産調整=継続中

という構造になっています。


2.減反が廃止されたのに、なぜ今も話題になるのか?

制度としての減反は廃止されていますが、「減反が続いている」「また減反が始まるのでは」といった声が残る背景には、主に次の3点があります。

(1)米需要の長期的減少

農林水産省の統計によれば、日本人1人当たりの年間米消費量は、1960年代のピーク時にはおよそ118kg前後だったのに対し、近年はおおむね50kg前後まで減少しています。米の消費量が半分程度まで減れば、需給が緩み米価が下落しやすくなります。米価が下がれば農家の経営は厳しくなるため、地域主体の作付調整が実質的に必要となり、「減反」という言葉がイメージとして残り続けます。

(2)米価の変動と調整議論の再燃

近年、産年ごとに米価が大きく動く局面があり、そのたびに需給調整の在り方が議論されます。農林水産省の需給関連資料でも、需給バランスの変化が米価に大きな影響を及ぼす点が示されており、米価下落局面では「作付調整を強めるべきだ」という議論が起こりやすくなります。このとき、報道や現場の会話で、慣習的に「減反」という言葉が使われやすい状況があります。

(3)食料安全保障・国土保全としての水田

世界情勢の不安定化や気候変動の影響から、国内の食料供給力・国土保全への関心が高まっています。米は国内で安定的に生産できる主食であり、「水田の維持=国土保全・食料安全保障への投資」という考え方が強まっています。そのため、水田政策全体が注目され、その一部として「減反」が話題として取り上げられやすい状況があります。


3.現在の水田政策の軸:「多角化」と「地域主導」

現行の水田政策を理解するうえで重要なのが、「水田活用の直接支払交付金」の仕組みです。これは、水田で主食用米だけを作るのではなく、複数用途・複数作物の組み合わせによる経営を推進するための交付金で、現在の水田農業政策の中核と位置づけられています。

主なポイントは次の3つです。

(1)米単作からの脱却を促す

交付金の対象には、

  • 大豆
  • 飼料作物
  • そば
  • 野菜 など

主食用米以外の作物が多数含まれており、米だけに依存しない「水田複合経営」が推奨されています。国産原料としての需要が高まっている麦・大豆などは、生産拡大が政策的に重視されている品目です。

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(2)飼料用米への手厚い支援

飼料用米は、主食用米の需給調整に役立つと同時に、家畜用飼料の国産化(自給率向上)にも貢献するため、政策的に支援が厚い品目です。一定の条件を満たせば、交付金を通じて収益の柱になり得る作目として位置づけられています。

(3)地域ごとの判断の重み

国の一律的な生産数量目標がなくなった結果、市町村・JA・地域協議会など地域の方針が、農家の作付け判断に大きく影響します。同じ県内でも地域によって作付方針や推奨作物が異なりやすくなっており、農家にとっては、地域単位での情報収集・合意形成が一層重要になっています。

4.減反“復活”の可能性が低いと考えられる理由

農水省などの一次情報を踏まえると、かつてのような「国が数量目標を配分し、強制的に減らす」形式の減反制度が再導入される可能性は、現時点の公表資料を見る限り低いと考えられます。

(1)2018年の制度変更は「政策転換」として整理

生産数量目標配分の廃止は、単なる政策の後退ではなく、「市場メカニズムの活用」「地域主体の判断」を重視する方向への政策転換として整理されています。正式な資料の中に、旧来の配分方式に戻すことを示唆するような明確な方針は示されていません。

(2)多用途の水田活用が国策として定着

「水田活用の直接支払交付金」が複数年にわたり継続されていることからも、国は「米のみの水田」ではなく、「複数用途で安定収益と自給力を両立させる水田」を志向していると解釈できます。この方向性と、再び一律の減反を強める方向性は整合しにくいと言えます。

(3)水田減少リスクと食料安全保障

強制的な減反を再導入すると、条件不利地域などでは水田放棄・耕作放棄地の増加につながるリスクがあります。国土保全や水害リスク低減、食料供給力といった観点から、水田面積の急激な縮小を招きかねない施策は採りにくいと考えられます。


5.農家として検討したい方向性(実務的視点)

政策と需給の変化を踏まえると、農家が検討できる方向性として、以下の点が挙げられます。

(1)米単作から「水田複合経営」へ

米だけで安定した所得を確保することは年々難しくなっており、

  • 米+大豆
  • 米+飼料用米
  • 米+そば
  • 米+野菜

など、水田を通年で活用する複合経営が現実的な選択肢になっています。機械や作業体系との相性、地域の受け入れ体制を踏まえた組み合わせ設計が重要です。

(2)飼料用米・加工用米を選択肢に入れる

交付金制度と市場ニーズを踏まえると、主食用米から一部を飼料用米・加工用米などに振り向けることで、収益を維持・安定させやすいケースがあります。販売先(JA・実需者)との契約条件や、地域での取組状況を確認しながら検討する価値があります。

(3)地域協議会・JAの情報を最優先

国の政策方向性は大枠を示すにとどまり、実際の作付け方針は地域の協議会やJAが主体になります。そのため、補助事業や交付金単価、推奨作目など、地域で決まる要素を毎年しっかり確認することが、経営判断に直結します。説明会・個別相談・営農指導員とのやりとりなどを通じて、最新情報を把握しておくことが重要です。


6.まとめ:変化の時代に求められる柔軟さ

  • 旧来型の「国の強制的な減反」は2018年産から廃止
  • 需給と米価の安定のため、自主的な作付調整は依然として重要
  • 統計上、米需要は長期的に減少傾向が続いている
  • 「水田活用の直接支払交付金」が水田政策の中心的枠組み
  • 米だけに依存しない多角化・水田複合経営が経営安定の鍵

水田農業は、米中心から「需要と政策を見ながら作物構成を組み替える」時代へと移行しています。国の制度と地域の方針を正しく理解しつつ、自分の経営条件に合った複合化の形を探ることが、これからの農家にとって重要なポイントと言えます。


参考文献

  1. 農林水産省 食料需給表(令和6年度版)
    https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
  2. 農林水産省 主食用米の需給資料(需給見通し・米政策関連)PDF
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/attach/pdf/kome_siryou-267.pdf
  3. 農林水産省 水田活用の直接支払交付金
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/220816.html