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急増する熊被害から農地を守る!農家が知っておくべき対策と最新情報【2025年版】

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過去最多を更新する熊被害の実態

2025年度、全国で熊による深刻な被害が相次いでいます。環境省の発表によると、今年度熊に襲われて死亡した人は9人と過去最多を記録しました。10月22日時点での人身被害は、すでに昨年度の年間被害数(82件・85人)を大きく上回る状況となっています。

特に注目すべきは、市街地にまで熊が出没するようになったことです。つい先日も群馬県内のスーパーに熊が侵入し、2人が負傷する事件が発生しました。もはや「山間部だけの問題」ではなく、私たち農業従事者にとっても他人事ではない状況になっているのです。

深刻化する農業への影響

農作物被害額は前年比で大幅増加

農林水産省の統計によると、熊による農作物被害額は7億円(前年度比+3.4億円)と大幅に増加しています。これはシカ(70億円)、イノシシ(36億円)に次ぐ規模で、近年の増加率では最も警戒すべき数字です。

特に被害が多いのは以下の作物です

  • 果樹類:リンゴ、柿、栗、ぶどうなど甘い果実
  • トウモロコシ:デントコーンを含む飼料作物
  • 養蜂場:蜂蜜や巣箱への被害

長野県では、山間部の果樹園や山菜採取地での熊出没が頻発しており、農作業中の遭遇事故も増加傾向にあります。収穫期を迎える秋は特に熊の活動が活発化するため、最大限の警戒が必要です。

なぜ今、熊被害が増えているのか

熊被害急増の背景には、複数の要因が絡み合っています:

1. ハンター不足の深刻化

環境省によると、ライフル銃や散弾銃を扱う免許保有者は1975年度の約49万人から、2020年度には9万人まで減少しています。約80%も減少したことで、熊の個体数管理が困難になっているのです。

この課題に対応するため、環境省は来年度予算に「自治体がハンターを職員として雇用するための交付金」を盛り込む検討を始めました。いわゆる「ガバメントハンター」制度の創設により、緊急時の素早い対応が期待されています。

2. 人口減少と耕作放棄地の増加

中山間地域の過疎化により、人間の生活圏と熊の生息域の境界が曖昧になってきました。管理されなくなった果樹や耕作放棄地は、熊にとって格好の餌場となっています。

3. 気候変動による影響

温暖化の影響で、熊の主食であるブナの実やドングリの結実状況が不安定になっています。山の餌が不足すると、熊は人里に降りてくる頻度が高まります。

今すぐできる!熊対策の基本

農地周辺の環境整備が第一歩

熊対策の基本は「熊を近づけさせない環境づくり」です。熊は基本的に臆病な動物のため、身を隠しづらい場所には近づきにくい習性があります。

すぐに実践できる対策

見通しの良い環境を作る

  • 林縁部(森林の端)や農地周辺の藪を定期的に刈払う
  • 最低でも建物から5~10メートルは草を短く刈り込む
  • 河川沿いの灌木も刈払い、熊の移動ルートを遮断する

誘引物を除去する

  • 収穫しない果樹は伐採または果実を早めに除去
  • 収穫残渣や落ち果実は放置せず速やかに処分
  • 生ごみは熊が開けられない容器で保管

熊に人の存在を知らせる

  • 農作業時はラジオや鈴を携帯
  • 朝夕の薄暗い時間帯の単独作業は避ける
  • 熊の痕跡(糞、足跡、爪痕)を発見したら速やかに撤退

電気柵の効果的な設置方法

農作物を物理的に守るには、電気柵が最も効果的です。熊は力が強く器用なため、一般的な金属柵では破壊されたり登って乗り越えられてしまいますが、適切に設置された電気柵には高い防除効果があります。

ポイント

  • 3段張りが基本:地上20cm、40cm、60cmの位置に電線を張る
  • 電圧は6,000~9,000ボルトを維持する
  • トリップ柵の併用:既設の電気柵から15~20cm手前にもう1段追加すると、さらに効果的
  • 定期的なメンテナンス:雑草が電線に触れると効果が落ちるため、こまめな草刈りが必須
  • 電圧チェック:週に一度は電圧を測定し、規定値を保つ

実際に、過去3年間で電気柵を設置したモデル地区では、熊被害がゼロになった事例も報告されています。初期投資は必要ですが、長期的な被害軽減効果を考えると非常にコストパフォーマンスの高い対策と言えるでしょう。

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万が一に備える熊スプレーの知識

熊スプレーの効果と使用方法

農作業中に不意に熊と遭遇してしまった場合、熊スプレーが命を守る最後の砦となります。北米での研究では、90%以上の確率で熊の攻撃を止める効果があることが実証されています。

熊スプレーの基礎知識

  • 成分:唐辛子の辛味成分カプサイシンを高濃度で配合
  • 有効距離:約3~10メートル(製品により異なる)
  • 噴射時間:多くの製品で4~9秒間の連続噴射が可能
  • 効果:熊の目・鼻・喉の粘膜を刺激し、一時的に行動不能にする

正しい使い方

  • 携帯方法:腰のホルスターにすぐ取り出せる状態で装着
  • 使用タイミング:熊との距離が10m以内に接近したら準備、3m以内で噴射
  • 噴射方法:熊の顔に向けて、やや下向きに噴射(霧状に広がる)
  • 退避行動:噴射後は後ずさりしながら距離を取り、安全を確保

注意点

  • 風上から噴射すると自分にもかかる可能性があるため、風向きを確認
  • 使用期限があるため、定期的に買い替えが必要
  • 予行練習として使い方を確認しておく(実際に噴射はしない)

国内でも実際に熊スプレーで命を救われた事例が複数報告されています。農作業で山間部に入る方は、必ず携帯することをおすすめします。

準備すれば安心「熊スプレー」

被害に遭わないための行動指針

農作業時の安全チェックリスト

長野県でも農作業中の熊遭遇事故が増えています。以下のチェックリストを実践して、熊被害を未然に防ぎましょう。

作業前の確認:
☑ 地元自治体の熊出没情報をチェック
☑ 単独作業を避け、2人以上で行動
☑ 熊鈴やラジオ、熊スプレーを携帯
☑ 明るい時間帯を選び、朝夕の薄暗い時間は避ける
☑ 携帯電話を必ず持参し、家族に行き先を伝える

作業中の注意:
☑ 定期的に周囲を警戒し、音を立てて存在をアピール
☑ イヤホンで音楽を聴きながらの作業は絶対に避ける
☑ 熊の痕跡(糞、足跡、食痕、爪痕)を見つけたら即座に撤退
☑ 子熊を見かけたら、近くに必ず親熊がいると認識し、静かに離れる

もし熊と遭遇してしまったら

  • 慌てず冷静に:大声を出したり、急に走って逃げるのは逆効果
  • 熊から目を離さない:ゆっくりと後ずさりしながら距離を取る
  • 物を投げない:刺激して攻撃的にさせる可能性がある
  • 木に登らない:熊は木登りが得意なため危険
  • 10m以内なら熊スプレー使用:迷わず顔に向けて噴射

地域で取り組む熊対策

自治体の支援制度を活用しよう

多くの自治体では、熊対策のための支援制度を設けています。長野県でも電気柵設置費用の補助金制度がありますので、積極的に活用しましょう。

主な支援制度:

・電気柵設置費用の補助(通常、設置費用の50~75%を補助)
・熊出没情報のメール配信サービス
・集落ぐるみの環境整備活動への支援
・熊対策講習会・研修会の開催

集落単位での連携が効果的

熊対策は個人の取り組みだけでは限界があります。集落全体で以下のような取り組みを行うことで、より高い効果が期待できます:

  • 出没情報の共有体制づくり:LINEグループなどで即座に情報共有
  • 一斉環境整備の実施:年に数回、集落全体で藪の刈払いを実施
  • 電気柵の広域設置:個別ではなく集落単位で連続設置すると効果大
  • 見回り活動の実施:特に収穫期は当番制で早朝・夕方の巡回

これからの熊対策を考える

2024年に国は熊を保護対象から外し、シカやイノシシと同様に「指定管理鳥獣」に加えました。これにより、集中的な捕獲による個体数管理が可能になりましたが、ハンター不足という構造的な課題は残ったままです。

環境省が検討している「ガバメントハンター」制度が実現すれば、緊急時の対応力向上が期待できます。しかし、それだけに頼るのではなく、私たち農業従事者自身が正しい知識を持ち、適切な対策を講じることが何より重要です。

まとめ:命と作物を守るために

熊被害が過去最多を記録する今、農業従事者として以下のポイントを押さえておきましょう:

基本対策:
✓ 農地周辺の見通しを良くし、熊が近づきにくい環境を作る
✓ 電気柵を適切に設置・管理し、物理的に農作物を守る
✓ 誘引物(収穫しない果実、残渣)を放置しない

身を守る装備:
✓ 熊鈴・ラジオで存在をアピール
✓ 熊スプレーを必ず携帯
✓ 単独行動を避け、薄暗い時間の作業は控える

お手軽に手に入る「熊鈴」

熊用ホイッスルも

地域との連携:
✓ 自治体の支援制度を積極的に活用
✓ 集落単位で情報共有と環境整備を実施
✓ 熊出没情報を常にチェック

秋の収穫期は熊が最も活発になる季節です。長年培ってきた大切な農作物と、何より皆さん自身の命を守るため、今日からできる対策を始めていきましょう!


参考情報

  1. TBS NEWS DIG
     相次ぐクマ被害 自治体の「ハンター」雇用に交付金検討(環境省)
     掲載日:2025年10月22日
     URL:https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2242477
  2. 環境省「鳥獣関係統計」
     鳥獣の保護及び管理等に資するデータをまとめた公的統計資料
     URL:https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs2.html
  3. 農林水産省「農作物被害状況」
     全国の野生鳥獣による農作物被害額をまとめた統計(令和5年度)
     URL:https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html
  4. 長野県「農作業中のクマとの遭遇にご注意ください」
     農作業中の安全対策や地域注意報の発令に関する公式ページ
     URL:https://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/choju/kuma_higai_boshi.html