耕作放棄地は負債から遊休資産へ後継者不在時代の農地ビジネス入門
目次
「増え続ける耕作放棄地」と消えていく農家
「畑が草に飲み込まれていく」
「田んぼのあぜが崩れ、獣が出る」地方の現場で起きているのは、単なる景色の変化ではありません。
日本の農業は、担い手の高齢化と減少が、農地の維持そのものを揺さぶっています。
たとえば、農業の中核を担う基幹的農業従事者は、2025年(概数)で約102.1万人、平均年齢67.6歳まで上がっています。
人数は2015年(175.7万人)→2020年(136.3万人)→2025年(102.1万人)と減少基調が鮮明です。
農地側も同様で、全国の耕地面積は2025年に423.9万ha。
年々減少しています。
ここで整理しておきたいのが「耕作放棄地」の意味です。
統計上は農林業センサスで、
以前耕作していた土地で、過去1年以上作付けせず、かつ今後数年の間に再び作付する考えのない耕地と定義されてきました。
一方で行政は、現地確認を伴う「荒廃農地」も把握しており、
令和2年(2020年)の荒廃農地は約28.2万ha、
そのうち再生利用が可能な荒廃農地は約9.0万haとされています。
耕作放棄地・荒廃農地が増えると何が起きるのか。
ビジネスパーソン視点で“外部不経済”を並べると分かりやすいです。
- 景観悪化:地域の不動産価値や観光価値にじわじわ効く
- 獣害・病害虫リスク:放置地が「隠れ家・繁殖地」になり、周辺の営農コストが上がる
- 土砂災害・防災面の不安:管理放棄で法面が弱くなる、排水が詰まる
- 地域経済の縮小:農家戸数が減るほど、資材店・整備工場・運送など周辺産業も細る
- 食料供給・安全保障の論点:農地が痩せ、復旧コストが上がるほど“いざという時に戻れない”

ただし、ここで視点を変えてみましょう。
放置されている農地は、見方によっては巨大な遊休資産です。
都市では確保しづらい面積の土地が、地域に眠っている。
問題は「資産として回す仕組み」と「回せるプレーヤー」が足りないこと。
次章からは、そのメカニズムをほどきます。
2. なぜ耕作放棄地が増えるのか:後継者問題のメカニズム
典型的なストーリーは、驚くほど似ています。
- 親世代(70代前後)が“なんとか”農業を続ける
- 子世代は都市部で就職し、生活基盤ができる
- 農業は「収益の振れ幅が大きい」「体力的に厳しい」「地域の役割も多い」
- 結果、「継がない/継げない」判断が合理的になる
- 農地は売りにくく、貸すにも手続き・相手探しが重い
- そのまま放置 → 耕作放棄地化(荒廃が進むほど復旧費が跳ね上がる)
ここで重要なのは、後継者がいない=農業に価値がないではないことです。
むしろ多くの場合、問題はこうです。
- 従来型(家族労働+小規模分散+卸中心)のやり方だと、割に合いにくい
- 一戸で全部やる前提のままなので、経営の分業・外部化が進まない
- 農地が細切れで、集約できないと機械効率が出ない
- 相続で権利関係が複雑化し、「動かしたくても動かせない」状態が起きる
つまり後継者問題は、精神論ではなく構造の問題です。
裏返せば、構造を変えるプレーヤーにはチャンスがあります。
たとえば、集約・受託・法人化、あるいは農業を“作る”だけでなく売る体験にするエネルギーと組み合わせるなど、
収益源を複線化するアプローチです。
3. 耕作放棄地は負債か資産か:ビジネス視点での整理
耕作放棄地をビジネスとして見るとき、最初にやるべきは「感情」ではなくP/LとB/Sの棚卸しです。
「負債」側(放置のコスト)
- 草刈り・見回りなどの維持管理コストが発生する
- 獣害・害虫の温床になり、周辺の生産性を下げる(地域全体のコスト増)
- 荒廃が進むほど、復旧に抜根・整地・水路補修が必要になり、初期投資が膨らむ
「資産」側(活用のリターン)
- 都市ではあり得ない広さの土地が、条件次第で借りられる/集約できる
- 「農地=作物」だけでなく、体験・教育・観光・エネルギーなど多用途に展開できる
- 放置されている領域ほど、競争相手が少ない=発想次第でブルーオーシャンになり得る
ポイントは、「土地の価値」ではなく土地を回すオペレーション設計に価値があることです。
排水・水源・道路・集落との距離。
契約形態。
誰が現場を回すのか。
売り先はどこか。
ここを設計できるチームが勝ちます。
そしてもう一つ。
ここで効いてくるのが農業×テクノロジーです。
圃場管理のデジタル化、遠隔での見回り、作業記録の標準化、
EC・Webマーケでの直販導線「人が足りない」問題を、仕組みで薄めることができます。
後継者不在の時代は、人ではなくシステムが継ぐ割合が増えていきます。
4. 具体的な「耕作放棄地ビジネス」のタイプ
ここからが本題です。読者が自分ごと化しやすいように、
各モデルを「モデル/収益ポイント/後継者問題との関係」で整理します。
4-1. 再生農業モデル(高付加価値作物・6次産業化)
モデル:耕作放棄地を再生し、有機・特産・果樹・ハーブ・薬草など単価が立つ作物へ転換。
加工・EC・観光と組み合わせて6次産業化。
収益ポイント:
- 「作って終わり」ではなく、加工・定期便・ギフトで粗利を上げる
- 直販はマーケ力が命。SNS・広告・CRMで“ファン化”できると強い
- 生産はスマート農業(作業記録、センサー、営農計画)で属人性を減らす
後継者問題との関係:
個人の跡取りを待つのではなく、地域の農地をまとめて受け、
農業法人・受託組織として運営する形が取りやすい。
つまり「家業の承継」ではなく、「事業としての承継」に切り替えるモデルです。
ここで稼げる農業の肝は、反収よりも「どこで粗利を取るか」。
作物選定より先に、販売チャネルと単価設計から逆算するのが鉄則です。
4-2. 体験型・観光型モデル(アグリツーリズム・教育)
モデル:体験農園、農泊、キャンプ・グランピング、ワーケーション、食育、企業研修をパッケージ化。
収益ポイント:
- 収穫体験+BBQ+物販など、客単価を積み上げる
- 平日稼働を企業研修で埋めると、季節変動を緩和できる
- “地域のストーリー”が商品になる(企画・編集・デザインが効く)
後継者問題との関係:
専業の後継者を直接生むわけではありません。
しかし、都市住民が地域と関わる入口になり、関係人口→副業人材→移住・就農へ繋がる回路を作れます。
農地を守るのは、必ずしも農家だけではない、という発想です。
4-3. エネルギー・環境系モデル(ソーラーシェアリング等)
モデル:営農を続けながら、農地上部に太陽光設備を設置する「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」など。
収益ポイント:
- 農業収入+電力収入で、経営の安定性を上げる
- 農業単体では厳しい土地条件でも、組み合わせで成立余地が出る
- ただし「発電に重きが置かれ営農がおろそか」な事例への対策として、制度運用も厳格化しているため、設計が重要
後継者問題との関係:
後継ぎ不在の農地を長期で借り、地代を払い、地域雇用も生み得る。
ただし、営農型は農地法に基づく一時転用許可などが関係し、
2024年4月1日に許可基準等を規則に位置付け、ガイドラインも整備されています。
制度理解は必須です。
4-4. コミュニティ型モデル(シェア畑・市民農園)
モデル:区画貸し(市民農園)を、管理サービス付きにして“誰でもできる農”へ。
収益ポイント:
- 利用料(サブスク)でストック型収益を作れる
- 運営はオペレーション勝負(区画管理、資材、指導、コミュニティ設計)
- 物販や講座、法人プランで単価を上げられる
後継者問題との関係:
これも専業後継者を直接増やすモデルではありませんが、
農に触れる人口を増やし、将来の新規就農の母集団を広げます。
「守る」だけでなく「増やす」発想です。
5. プレーヤー別のビジネスチャンスと役割
耕作放棄地は、単独プレーヤーで攻略しにくい市場です。
だからこそ、役割分担が効きます。
個人起業家・副業人材
- 1〜数haで、体験農園・農業×カフェ・キャンプ場など小さく始める
- 強みは企画力と発信力。弱みは農地・制度・現場運営
- 地主・自治体・中間支援と組み、最初から“分業”するのが現実的
企業(メーカー・小売・ITなど)
- 原材料の産地確保(トレーサビリティ、サステナビリティ)
- 福利厚生・研修プログラムとしての農業活用
- IT企業なら、営農管理・販売・人材の仕組み化に価値を出せる
地域の農業法人・JA・中間支援組織・行政
- 農地の集約、担い手マッチング、研修受け入れ
- 「従来農家の受け皿」と「外部人材の入口」をつなぐハブ
- ここが機能すると、耕作放棄地は“案件化”して流通し始める
結局のところ、後継者問題の答えは「誰か一人の跡取り」ではなく、
複数プレーヤーのネットワークで農地を継ぐことにあります。
6. ビジネスとして成立させるためのチェックポイント
アイデアだけでは回りません。
最低限、以下をチェックリスト化して潰すべきです。
- 収益モデル:農産物販売/体験・観光/エネルギー/サブスク/B2B(原料供給)
- 資源条件:立地(都市からの距離)/水・道路/圃場のまとまり/周辺の獣害状況
- 法規制・契約:農地法、賃借契約、許認可(建築、宿泊、キャンプ場等)
- 人材:現場を回す人/地域との橋渡し役/販売・マーケを担う人
- パートナー:地主・自治体・金融機関・既存農家・NPO・農業委員会
そして実務的に効くのが「初期投資の最適化」です。
機械・設備・整備体制がネックになりやすいので、リースや中古活用、
地域の整備ネットワークを持つパートナー選びが重要になります。
たとえば唐沢農機サービスのように、
農機の選定から運用・整備まで“継続的に伴走できる”存在がいるだけで、参入時の不確実性は大きく下がります。
7. 結び:「後継者不在から、“役割分担型”の農地継承へ」
家族の誰かが継ぐそのモデルが成立しにくくなったのは、データが示す通りです。
基幹的農業従事者は減り、高齢化し、耕地面積も縮小しています。
しかし同時に、荒廃農地の中には「再生利用が可能」と見込まれる土地も残っています。
これからの農地継承は、外部人材・企業・農業法人・コミュニティが、
それぞれの強みを持ち寄る「役割分担型」へ移行していくはずです。
そのとき必要なのは、精神論ではなく、案件を成立させるための仕組み契約、
資金、人材、販路、現場オペレーション、そしてテクノロジーです。
もしあなたが、地域の耕作放棄地を「課題」ではなく「事業機会」として捉え直したいなら。
次に考えるべき問いは、これです。
あなたの地域の耕作放棄地は、どんな可能性を秘めているでしょうか。
そして、その可能性を引き継ぎ、回すために、誰と組み、どんな役割分担を設計しますか。
(第三者承継や農地のマッチングを支援する「農業アトツギ」のような仕組みを活用することも、現実的な一手になります。)